7月半ば、容赦なく照りつける真夏の太陽の下で、私達は10分ほど立っていたでしょうか。汗がどっと噴出してきましたが、そのうち、犬の飼い主に、日陰に入るよう促されました。私たちにとっては、ほんの10分間の苦しみでしたが、その犬は、毎日、朝から晩まで、1日中灼熱の太陽に焼かれて、鎖につながれたまま、逃げる事もできないのです。何人かの人が、見かねて電話をかけてきたり、立ち寄って、「犬がかわいそうだから、直射日光をさえぎる日よけを作ってあげたら?」と主人に提言していたのですが・・・。男は、店の中から大きな温度計を持ち出してきて、犬小屋に入れて測ってみました。摂氏36度。「うん、今日はちょっと暑いな」と彼は認めました。
1年前までこの犬は、どこかの山中に飼われていて、週に2度、餌と水を与えられるだけでした。10年間も、犬は逆境に耐えてきたのです。そのうちに、犬が保健所に渡されてしまうと聞いて、今の主人が引き取り、店先で番犬として飼おうと申し出たのでした。「我ながら良いことをした」と彼は満足し、ちょっとしたスペースにプラスチック製犬小屋を置いて、餌と水を与え、散歩もさせてきました。焼け付くような日差しの中、老犬を錆びついた重くて短い鎖につないでおいても、彼はそれが残酷だとは思いもしませんでした。妻と彼の両親が、助太刀に出てきました。おばあさんは、小型のマルチーズを抱いていましたが、この子は当然ながら、家の中の涼しい所で飼われうんと甘やかされているにちがいありません。家族は店の隣の、一戸建て住宅に住んでいるので、スペースがないわけではありません。庭には木陰もあるし、涼しい場所はいくらでもあります。なぜ、もう少し居心地の良い所に犬を移してあげないのでしょうか。このような人たちには分からないのです。思いもしないのです-犬が苦しんでいるなんて・・・36度という気温が、犬にとっては人間以上に苦しいものだとは。熱を放出しようにも、人間みたいに発汗機能がないので、目の前の老犬のように、ただ来るしまぎれにハアハア喘ぐしかないということが彼らには理解できないのです。
しかし、問題はそれだけではありません。心配した人々が警察と保健所、兵庫県/尼崎市動物愛護センターに電話をして、飼い主が犬の面倒をきちんとみるように促してほしいと求めていました。それに対して、警察は現場に行って、状況を検分する事さえせず、「動物に対する虐待は我々の関知するところではない」と拒否したそうです。一方、飼い主によると、保健所の職員達が訪ねて来た結果、すべて「申し分なし」、「問題ない」と言われたとか。
これこそが重大な問題なのです。保健所の職員が-その中には獣医師も多くいるのに-犬が明らかに過酷で生命さえ脅かされかねない状況に置かれていることを知りながら、飼い主に改善を促す何の助言もできないのだとすれば、何かが決定的に間違っています。おそらく、彼らは「犬の問題」に関して人々から寄せられた苦情を処理するのが自分達の役目であるという旧態依然とした考え方から脱け切っていないのでしょう。改正動物保護法が施行されて以来、事態は変化しているのに、それを認識できないのです。今では人々は、犬の虐待についても、どんどん電話で訴えるようになっています。(動物に対する愛情と尊重を旨とする)「愛護」センターが何もできない、(それとも、したくない?)のであれば他の誰かに責任が果たせるというのでしょうか?
「虐待」といえば、打つ、殴る、痛めつけるなど、はっきりそれとわかる形の暴力行為を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、「虐待」の定義には、するべきことをしないため、結果的に苦しみを与えてしまう場合もあるのです。次に、「犬の世話と飼い主の責任」について簡単なガイドラインを示しておきます。ほとんどの方にとっては、先刻ご承知のことばかりだと思いますが、知らない人がいるのも事実なのです。
基本的な心得
*愛情と仲間意識をもって接する
*犬の年齢と状態に応じて、バランスのとれた、十分な食餌を与える
*きれいな水がいつでも飲めるようにしておく
*犬の年齢に応じた適度な運動をさせる
*悪天候に対応できる居住場所の確保
*夏の日よけ、雨よけ、冬の寒さ対策として、毛布、断熱などの配慮をする
*日常的に毛の手入れを怠らない
*フィラリアの薬、ワクチン接種など、病気に対する日頃の予防
*病気のときは獣医に相談する
*居住地の役所に「畜犬登録」する
その他の留意点
*犬の居場所は、風雨を防げるだけでなく、人々の往来を眺められる所が望ましい
*犬は十分な高さと強度をもったフェンスの中に入れて、鎖につながず、自由に動きまわれるようにする
*犬小屋の上方に屋根をつけて、雨天時、狭苦しい所に閉じ込められるのを防ぐ
*6歳以上の犬は、定期的に獣医による健康診断を受けさせ、病気の発病を予防する
*基本的しつけをする。ごほうびを与えて訓練し、扱いやすい、社会性のある犬に育てる
十分な世話を受けていなかったり、苦しんでいる犬を目撃した時には、「かわいそうに!」というだけで何もしないのは無責任です。はっきりと、(だが、礼儀正しく)飼い主に忠告してあげるべきです。こういう飼い主の中には、悪意からではなく犬の飼育方法や基本的心得を知らないため自分のやり方が正しいと思い込んでいる場合もあるのです。警察や保健所に連絡して善処を求めます。あなたが動物福祉に関心を持ち注目している事を彼らに知らせましょう。
後書:
私たちが暑い中「哀れな老犬」を訪問した次の日、店のご主人は「よしず」を立てかけて、犬小屋には日よけを作ってくれました。百点満点とはいかなくても、正い方向に一歩踏み出したのは確かです。黙って見過ごすのではなく、私たちが声をあげる事で、たとえ小さくとも変化をもたらすことができるのです。
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